触れることの「意味」を分解する
The Fishbone Tactile Illusion (2006)
2006年に発見した触覚の錯覚現象です。“Fishbone Tactile Illusion” という名づけたこの現象では、魚の背骨のようなテクスチャを指でなぞると背骨の部分がくぼんで感じられます。。実際には、上図の青い部分はすべて同じ高さになっていて、背骨の部分は実際には平坦であるにもかかわらず、奥行き方向に凹であるように感じます。滑らかな平面がデコボコのある粗い平面に囲まれると、この錯触覚が起こることがわかっています。
この錯触覚は、2011年度のBest Illusion of the Year Contestにおいて、その年に報告された錯覚現象のトップ10の1つとしてノミネートされました。
圧受容器:メルケル細胞の研究 (2014)
メルケル細胞は、皮膚の中にある生体の触覚センサとして圧力を検出することが知られていますが、具体的にどのようにして圧力を検出しているのかについては、1875年に初めてドイツ人の解剖学者であるメルケル博士によって報告されて以来、謎のままでした。2014年になって、私が所属していた研究グループを含む3つの研究室からの報告により、メルケル細胞がどのようにして圧力を検出しているのかについて明らかになりました。この基礎知見は、Nature誌(Merkel cell exhibited touch evoked current)に掲載されています。コロンビア大学医療センターのニュースリリースでもこの研究について紹介されています。
握手を通した共感の伝達 (2014-)
他人と握手を交わしている際、自分の手は相手の手を握っているのでしょうか。それとも、握られているのでしょうか。この質問は、主体である私について考える際に興味深いものです。共著書「触楽入門」(朝日出版社、2016年)に掲載したこのワークショップでは、参加者に目をつむって握手を交わしてもらいます。その時に、「自分が主体的に握手をしている」と感じた時に、手を挙げてもらうように指示します。目をつむった二人が握手を交わしている様子を眺めてみると、相手の手を握っている主体が交互に入れ替わったり、同時に主体性を感じるなどの遷移をみることができます。人と人との間で触感がやりとりされることで、共感や安心感などの非言語的情報を情動的に実感させる実例について、触覚ディスプレイを利用した情報環境構築を通じながら検討しています。
テクタイルツールキットの開発 (2011)
テクタイルツールキットは、触感を記録・再生・共有するための道具立てです。マイクロフォンによって得た音響信号を、触れることができる振動刺激に変換することで、工学の知識がなくとも直感的に触覚信号を取り扱うことができるシステムを開発しました。このテクタイルツールキットをつかったワークショップを世界・日本各地の大学・美術館・科学館やイベントなどで幅広く開催してきました。
TECHTILE とは、 “TECHnology/TECHnique(技術)” とof “tacTILE(触覚)” を組み合わせて作った造語で、触感に親しみ、その価値を考える活動を総称する意味で使っています。(See Project website)
本プロジェクトは、慶應義塾大学 (Yasuaki Kakahi Lab, Kouta Minamizawa @ Susumu Tachi Lab) と山口情報芸術センター(YCAM) InterLab (Soichiro Mihara, Naomi Kakuda and Richi Owaki)との共同研究によって行われました。
ASMRの発生メカニズム研究: Embodied Sound (2016)
ASMR (Autonomous Sensory Meridian Response) とは、自発的に心地よいと感じる主観的な体験です。YouTubeのような動画サイトに多く投稿されていて、視聴覚情報を介して触感的な経験を誘起します (see Wikipedia page)。典型的なASMR刺激は、移動している物音・人のささやき声・自然音をステレオ録音もしくはバイノーラル録音することで制作し、ヘッドフォンを介して再生します。ASMR刺激を体験すると背筋がくすぐったく感じたり、ゾクゾク・そわそわするような印象を得ることができます。
本研究プロジェクトでは、ASMRを引き起こすような音響信号を網羅的に集め、聴取した時に得られる主観評価(情動価・覚醒度)や生理応答(発汗、心拍、脳波の変化)を計測することで、現象の特徴抽出を試みています。
tOURs: 街を歩く時の興味と心拍の関係 (2016)
街あるきをしているときに、私たちの身体は歩くことでも心拍が上昇しますが、興味のある物を見て心がときめき、心拍が上がることもあるかもしれません。そんな街あるきの時に得たときめきの瞬間を写真として記録し、歩いた道の情報と一緒に振り返ることができたらどうでしょうか。街あるきの魅力がもっと感じられるかもしれません。tOURsと名付けたこのプロジェクトでは、街あるきをする本人の興味の記録と、その興味合わせた道案内技術のコンセプトを提案し、検証しました。